著作権判例・事例紹介

学術分野の著作権判例紹介

言語表現の著作物性の判定

 

知財高裁 平成 21年 (ネ) 10030号 著作権に基づく侵害差止請求控訴事件

新聞販売店と新聞社の間のトラブルに関して、ジャーナリスト(被告、被控訴人)が新聞社(原告、控訴人)が販売店に出した「回答書」や「催告書」をWEBに掲載したため、それらが著作物であり、複製に当たるとして訴えた案件です。

原審では「本件催告書は,著作権法2条1項1号所定の「創作的に表現したもの」であるとはいえないから著作物に当たらない」などと判断し原告の請求を棄却しましたが、原告側は『本件催告書の著作物性について言語表現物が著作物に該当するか否かは,表現それ自体に独創性が存在するかを判断基準とすべきではなく,「誰が書いても同じになる」とはいえない程度の表現の配列や全体的な構成であるかを判断基準とすべきである』などと主張して控訴した。

これに対して知財高裁は控訴を棄却し、裁判の中で以下のように言語表現の著作物性について言っています。

「言語表現に著作物性があるか否かは,何らかの個性が発揮されていれば足り,厳密な意味で,独創性が発揮されたものであることまでは必要ないが、作成者の個性が何ら現れていない場合は,「創作的に表現したもの」ということはできないと解すべきである。言語による表現では文章がごく短いものであったり,表現形式に制約があるため、他の表現が想定できない場合や,表現が平凡かつありふれたものである場合は,作成者の個性が現れておらず,「創作的に表現したもの」ということはできない。」

※判例の解釈・その他について弊社は一切の責任を負うものではありません。その後の類似例が同じ判断となる保証もありません。あくまで参考としてご紹介させていただくものです。留意の上お読みください。

 

転載と道義的責任

 

大阪地裁 平成 19年 (ワ) 7877号 著作権侵害差止等請求事件

マンションの広告に使ったイラストが別の作者のものを無断で翻案したものであるとして、著作権侵害が争われた裁判です。

結論としては裁判所は著作権侵害を認めなかったのですが、その判決文の末尾で以下のようにのべています。。

「なお,本件訴訟の審理の経緯にかんがみ,付言する。上記のとおり,被告らの行為は,原告各イラストの著作権又は著作者人格権を侵害するものではなく,被告ら が原告に対しこれによる法的責任を負うものではない。しかし,被告らがイラスト作成を依頼したAにおいて原告各イラストに依拠し,これを参考にして被告各 イラストを作成したことは前示のとおりであり,被告各イラストが,一見すると原告各イラストによく似ているところがあることは否定できない。
原告において、被告各イラストを見て原告各イラストを模倣されたと感じたことは無理もないところであるし,被告らにおいてもこの点を問題視していたことは,原 告からの指摘後直ちにマンション読本の配布を取りやめるとともに,全ての在庫を調査して回収し,廃棄していることからも明らかである。したがって,被告ら は原告に対し,法的責任はともかく,道義上の責任を負うことは否定できない。」

裁判所は翻案については、「本質的な表現上の特徴を感得することができるものとはいえない」として従来の最高裁の規準を出して著作権侵害を退けているものの、判決文の中で「一見すると原告各イラストによく似ているところがあることは否定できない」とも書いており、「一見似ていること」と「本質的特徴が感得されること」は異なるという説明をしてい ます。

さらにまた「道義的責任」に言及しています。これについては、私どもでも従来から「法的にどうかというよりも、著者や先行研究に対するリスペクトが大事」とエチケット、マナーの問題に触れてきましたが、、無用なトラブルを避けるに は、この点も重要であると改めて思いました。

※判例の解釈・その他について弊社は一切の責任を負うものではありません。その後の類似例が同じ判断となる保証もありません。あくまで参考としてご 紹介させていただくものです。留意の上お読みください。

 

研究論文類似事件~同じ知見は類似の表現をとらざるを得ない

 

大阪地裁 平成15年(ワ)6252号 損害賠償等請求事件

日本の薬科大学に研修員として入学した原告が発表した論文(以下「原告論 文」)に依拠して作成された論文(以下「被告論文」)に、執筆者として原告の氏名が表示されておらず、また、論文中で原告が作成した論文の成果を前提としたものであることも指摘しなかったことが、著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)の侵害にあたるとして、訴えたものです。

主たる争点は、原告論 文が著作物といえるか、でした。著作物であれば当然権利の対象になりますが、著作物でなければ対象になりません。したがって、この判例は「学術論文」という 特殊な著作物において、著作物かどうかの裁判所の判断を聞くことのできる一例です。

裁判所は、このような自然科学に関 する論文の著作物性に関し、以下のように判断しています。

「論文に同一の自然科学上の知見が記載されて いるとしても、自然科学上の知見それ自体は表現ではないから、同じ知見が記載されていることをもって著作権の侵害とすることはできない。また、同じ自然科 学上の知見を説明しようとすれば、普通は、説明しようとする内容が同じである以上、その表現も同一であるか、又は似通ったものとなってしまうのであって、 内容が同じであるが故に表現が決まってしまうものは、創作性があるということはできない。もっとも、自然科学上の知見を記載した論文に一切創作性がないと いうものではなく、例えば、論文全体として、あるいは論文中のある程度まとまった文章で構成される段落について、論文全体として、あるいは論文中のある程 度まとまった文章として捉えた上で、個々の文における表現に加え、論述の構成や文章の配列をも合わせて見たときに作成者の個性が現れている場合には、その 単位全体の表現として創作的なものということができるから、その限りで著作物性を認めることはあり得るところである。」

つ まり、実験の結果やそこから得られた知見といった学術研究の成果そのものは、著作権法による保護の対象にならないということです。また著作権侵害の判断にあたってはその表現を比較すべきですが、内容が同一ないし類似の自然科学上の知見や事実関係については、誰が書いても同一又は類似する表現になってしまう傾向が強いことも指摘されています。そのような場合は、表現における創作性を認めることはできないとして、原告の請求が斥けられています。

※判例の解釈・その他について弊社は一切の責任を負うものではありません。その後の類似例が同じ判断となる保証もありません。あくまで参考としてご 紹介させていただくものです。留意の上お読みください。

 

自然科学上の図表は著作物か

 

自然科学上の図表の著作物性

東京地裁 平成 16年 (ワ) 19816号 著作権侵害差止等請求事件

蒸気システム制御機器メーカー2社がそれぞれ製品に関して配布した資料中の図表、およびその説明文の著作物性を争った事案です。
「転載許諾」でよく使われる「図表」の著作物性を直接問題にした事案として興味深いものです。

裁判所の判断は、ここで使われている図表には 著作物性がないので、原告が要求した複写、印刷、頒布の禁止や著作権及び著作者人格権を侵害されたことに基づく損害賠償は、いずれも却下する、というもの でした。一方、説明文は著作物であると認定されました。
裁判所は「かかる技術的知 見ないしアイデアをチャート上に表現する場合には、チャート上の一次関数として表現することになるのであり、また、設定温度において水平線を記載して、設 定温度を下回る部分(実際には生じ得ない温度の部分)については、破線で記載するというのは、一般的な表現であり、かかる直線や破線は、(中略)所定の数 値に対応する点や線を記入すれば、チャート上では必ず同じ表現に至るのであって、これを創作性ある表現ということはできない。」としています。

自然科学上の研究における知見やデータを図表にしたものについては、厳密に法的に争えば著作物性が否定されるケースも多くあると思割れます。むし ろ、その転載は著作権の問題ではなく、多くの場合、マナーの問題と考えられるのではないでしょうか。出典の明示は最低条件のマナーですが、それを超えて著 作権者へ連絡しておく、ということです。

しかし海外の著作権者などは、問い合わせればロイヤルティが請求されることがほとんどです。しかし利用する側も著作権者の名前がほしい(=一流誌に 載ったデータであるということが記載されていることが重要)わけですから、「ブランドの使用料」的な理解もやむを得ない気もします。 そして著作物であるかどうか、の判断は著作権者と利用者の利害の対立点になってしまいますので、互いに争うよりも許容可能な範囲でマナーとして了解しあ うのが学術分野になじむのではないか、と思います。

※判例の解釈・その他について弊社は一切の責任を負うものではありません。その後の類似例が同じ判断となる保証もありません。あくまで参考としてご 紹介させていただくものです。留意の上お読みください。

 

広告会社の注意義務

 

平成 15年 (ワ) 2886号 損害賠償等請求事件

広告会社の責任について、広告写真の無断使用に関する裁判で、以下のようにのべられています。

「広告制作会社は、その業務上、他者が作成した著作物である写真や文章等を取り扱って利益を得ているのであるから、そのような著作物の著作権について十分な注意を払って事務処理をすべき義務を負う(中略)顧客に対し、別途著作権者から使用許諾を得る必要があることを伝える等の手段により、顧客による著作権の侵害が発生することのないよう、細心の注意を払うべき義務があるものと解すべきである」

また、出版社に対しても同様の注意義務を認定しています。

平成 17年 (ネ) 10095号 損害賠償等請求控訴事件

著作権侵害でなくても不法行為になる可能性として、「仮に著作物ではなかったとしても「他人の執筆の成果物を不正に利用して利益を得たと評価される場合には、当該行為は公正な競争として社会的に許容される限度を超えるものとして不法行為を構成するというべき」

結局、他人のものを使う以上は配慮するという気持ちが大事なようです。

※判例の解釈・その他について弊社は一切の責任を負うものではありません。その後の類似例が同じ判断となる保証もありません。あくまで参考としてご 紹介させていただくものです。留意の上お読みください。

 

 →こちらのブログもご覧下さい「(c)_permission学術分野の転載許諾

 

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